環境保護団体が気候変動についての訴訟でドイツ政府に勝訴

環境保護団体が気候変動についての訴訟でドイツ政府に勝訴

昨今、気候変動への対策を求め、市民団体が政府へ訴訟を起こす動きが世界中で増えつつあります。その中でも一早くドイツ政府に勝訴した、環境保護団体と若者たちの事例があります。今回はこの事例について、わかりやすく解説していきます。

目次

ドイツ政府を訴えた裁判の内容とは

まずは裁判の内容について、見ていきましょう。

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<訴訟を起こしたのはドイツの環境保護団体に属する若者たち>

ドイツ政府が2019年に施行した気候保護法に対して、「気候変動対策が不十分である」と、環境保護団体「Fridays For Future」ドイツ支部に所属する若者たちが訴訟を起こしました。

なぜなら、気候保護法には2020〜2030年までの製造業界や交通・運輸部門などの温室効果ガス年間排出量の上限値が示されていましたが、2031年以降に関しては、上限値が明記されていなかったからです。これについて、原告の若者たちは「2031年以降の温室効果ガス排出量の上限値が明記されていないのは、将来の世代が安全かつ健康に暮らせる権利を侵害している。政府は将来の世代の生命と健康を保護する義務を怠っている」と訴えました。

また、訴えを起こしたメンバーにはドイツ北部のペルヴォルム島で農業を営む家庭の跡継ぎたちも含まれ、「地球温暖化によって海面の上昇が起こり、農地に海水がかぶってしまったら農業ができなくなってしまう」と主張しました。

ぺルヴォルム島は島の大部分が海抜マイナス1mのため、水浸しやすい場所。海面が上昇すれば、島の生活を守ることができず、生命の危機にもさらされる可能性があるということを、強く訴えたのです。

<ドイツ連邦憲法裁判所が出した判決>

若者たちが起こした訴訟に対して、ドイツ連邦憲法裁判所は2021年4月29日に判決を出し、「ドイツ政府が施行した気候保護法は部分的に違憲である」としました。

つまり、気候保護法が2031年以降の温室効果ガス排出量の上限値を明記していないことに関して、裁判所は「温室効果ガスの削減計画が不十分であり、将来の世代に温室効果ガスのツケを回してはならない」と判断したのです。

また、裁判官たちは、「2031年以降の温室効果ガス排出量の上限値が明記されていないことで、将来の世代が温室効果ガスの排出を大幅に制限しなければならない可能性があり、若い世代の自由を侵害することになる」と指摘しました。

こうして訴えを起こしたドイツの若者たちは実質的に勝訴し、ドイツ連邦憲法裁判所はドイツ政府に対して気候保護法の早急な見直しを命じたのです。

環境保護団体が気候変動についての訴訟でドイツ政府に勝訴|<ドイツ連邦憲法裁判所が出した判決>

ドイツ政府の迅速な対応による気候保護法の改正

判決を受けたドイツ政府は、それからわずか13日後という異例の早さで気候保護法の改正案を閣議決定しました。ここでは、気候保護法の改正点についてお伝えします。

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<2030年の温室効果ガス削減目標を65%減に>

ドイツのメルケル政権は2030年の温室効果ガス削減目標を90年比55%減から65%減に引き上げました。それによって、エネルギー業界や製造業界など産業別に2022年〜2030年までの排出量の上限値を部分的に減らすと打ち出しています。

例えば、エネルギー業界では2030年の排出量上限値を1億7,500万tから1億800万tに変更し、38.3%引き下げるとしています。

<2045年までに温室効果ガス排出を実質ゼロに>

気候保護法の改正前は、2050年までに温室効果ガスの排出量の実質ゼロを目標としていましたが、5年前倒しして2045年までを目標にすると改正しました

また、2031年〜2040年までの年間あたりの排出量上限値に関しては、産業別の分配量を2024年に政令によって決めるとしています。さらに、2041年〜2045年までの上限値については、2034年の政令によって決めるとしました。

環境保護団体が気候変動についての訴訟でドイツ政府に勝訴|<2045年までに温室効果ガス排出を実質ゼロに>

目標達成のためには温室効果ガス削減と再生エネルギーへの転換が不可欠

ドイツ政府(メルケル政権)が異例の早さで気候保護法を改正した背景には、2022年9月に行われる連邦議会選挙に向けて支持率を上げる意図があるともささやかれています。

しかし、環境保護団体の若者たちの声、ドイツ連邦裁判所が出した判決は重大です。気候保護法の改正による新たな目標を達成するには、具体的な対策が重要です。温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すためには、再生エネルギーへの転換が不可欠となるでしょう。

今回はドイツの事例を紹介しましたが、温室効果ガス排出量を削減する努力は地球上に住むすべての人々に関わることです。省庁や企業に限らず、私たちひとりひとりが環境問題について関心を持ち、場合によっては声をあげる勇気を持つことも必要なのかもしれません。

参考:

https://www.bundesverfassungsgericht.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2021/bvg21-031.html
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210513/k10013027781000.html
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/07/a147a21fe8138847.html

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