20歳を迎える年に、大人の仲間入りを果たしたことをお祝いするために行われる成人式。
冠婚葬祭の「冠」にあたる成人式は、日本の四大儀礼のうちの1つであり、人生の大切な節目でもあります。
女性の中には、華やかな振袖をお召しになった方も多いのではないでしょうか。その振袖や着物が今、サステナブルな衣服として注目されています。
そこで今回は着物がサステナブルな理由や成人式に振袖を着る意味についてお伝えします。
「サステナブル」とは「持続可能な」という意味を持つ言葉です。最近ではあちこちで耳にする機会があるのではないでしょうか。
今、地球温暖化や海洋汚染、大気汚染など、地球は多くの環境問題を抱えています。世界では環境に配慮しながら、経済を発展させていく「持続可能な社会=サステナブルな社会」を築いていこうと、さまざまな取り組みが行われています。
ファッション業界においても、環境問題は例外ではありません。大量生産・大量消費による資源の使い過ぎや衣服の製造過程による環境負荷など、多くの問題を抱えています。
しかし、日本の伝統的衣装である「着物」なら、これらの問題を解決できるといわれています。
では、なぜ着物はサステナブルな衣服なのでしょうか。その理由について詳しく見ていきましょう。
着物は型紙を使用せず、くるくると巻かれた細長い一反の布から、袖、前身頃、後ろ身頃、襟などの部分を切り出します。直線的に裁断していくため、無駄な部分が一切なく、端切れもほとんど出ません。
一方、洋服は型紙を使い、体に合わせて布を裁断していくので曲線部分が多くなります。そのため、端切れもたくさん出てしまいます。
半端な部分がまったく出ない着物の裁断方法は、資源を無駄なく使い切り、廃棄物を出さないサステナブルな裁断方法といえるでしょう。
着物は仕立て直しが簡単にできるため、背が伸びたり、体型が変わったりしても長く着ることが可能です。なぜなら、着物は「おはしょり」といって腰の部分で折り込んで着るのが、一般的だからです。
また、初めから身長よりも少し長めに裁断されていることや、直線縫いであることも、仕立て直しがしやすい理由となっています。
一方、私たちが普段着ている洋服は、体型に合わせてサイズを選ばなければなりません。背が伸びれば丈が短くなったりするため、体形に合った大きなサイズのものに買い替える必要があります。
仕立て直しをすることで、体型が変わっても着続けることのできる着物には、物を長く、大切に扱っていこうという先人たちの想いや知恵が込められているのでしょう。
振袖などのフォーマルな着物は正絹(絹100%)で作られており、生地がしっかりとしていて丈夫です。保管の状態が良ければ、親子何世代にも渡って着続けることができます。
成人式の振袖も、母親から譲り受けたものを着た人もいるのではないでしょうか。最近では、受け継がれた振袖を「ママ振袖」と呼び、ママ振袖をおしゃれにアレンジして着るためのサービスも増えています。小物をプラスし、帯の色を変えるだけで、今風に可愛くアレンジできると人気です。
大切に受け継がれてきた振袖を着て成人式を迎えることで、家族の絆も実感できるのではないでしょうか。
日本では成人式に振袖を着るという習慣が定着していますが、そもそもなぜ振袖を着るようになったのでしょうか。その理由は、明治時代以降、振袖は「未婚女性の第一礼装」とされていることにあります。
かつて江戸時代の独身女性は、もともと袖が短い「小袖」と呼ばれるものを普段着として着ていたと言われています。
やがて江戸時代中期から後期になるとだんだんと長い袖にデザインが変化していったのです。理由に関しては諸説ありますが、江戸の踊り子が舞台上で踊る際に、袖が長い方が所作が美しく見えることや袖を振って感情を表現していたことが、一説としてあげられています。
また、袖を振ることで、厄払いや魔除けの意味もあるとされ、長い振袖の方がよりご利益があると考えられていました。加えて、袖の長い着物は普段生活する上で勝手が悪いこともあり、特別な日だけに着られるようになったと言われています。
このような背景から、振袖は「晴れ着」として大切な通過儀礼である成人式に、着られるようになったのですね。
かつて普段着として着られていた着物も、世代を超えて受け継がれ、古くなった着物は、最終的に座布団や巾着、ふきんなどにリメイクされていました。
洋服に慣れてしまった私たちが、普段着として着物を取り入れるには、簡単でないかもしれません。しかし、今、改めて着物の良さを再確認するのは大切なことです。
かつての日本人が自然に取り組んでいた「物を大切にする」という行動、そして想いを未来まで受け継いでいきましょう。
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民法改正により2022年4月1日から成人年齢が18歳に引き下げられますが、成人式の開催年齢については、民法改正後も基本的には地方自治体の判断に委ねられています。多くの自治体では従来通り20歳での開催を計画していますが、18歳での開催を表明する自治体もあります。