火山活動と聞くと、地球温暖化を進めるイメージがあるかもしれません。しかし、火山活動は、気候変動に温暖化とは異なる形で影響を及ぼすことがわかっています。
そこで今回は、火山活動はどのようなメカニズムで気候変動に影響を与えるのか、また過去における火山の噴火事例から予測できることについて解説します。
火山活動は気候変動にどのような影響を及ぼすのでしょうか。まずは火山活動と気候変動のメカニズムを確認していきましょう。
火山が噴火すると、「二酸化硫黄」や「火山灰」などの有毒な火山ガスが、長期に渡って大気中に放出されます。
二酸化硫黄は大気中の水に反応し、直径1マイクロメートルより小さい「エアロゾル」と呼ばれる微粒子に変わります。このエアロゾルが気候変動を引き起こす物質です。
ちなみに火山灰は鉱物やガラス質、岩石の破片などが多く、エアロゾルよりもサイズが大きい粒子がほとんどです。
そのため、大量に噴出された場合でも重力で落下しやすく、大気中にとどまることは少ないとされています。
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エアロゾルには、太陽の光を反射させ大気が温まるのを抑える「日傘効果」と呼ばれる働きがあります。そのため、大気中に漂うエアロゾルが多ければ多いほど、気温が低下する仕組みです。
例えば、大規模な火山が起こった場合、一気に数十キロメートルを超える高度までエアロゾルが噴射されます。高度数十キロメートル以上の成層圏では対流がほぼ起こらないため、エアロゾルが落下することが少なく、1年以上の長期にわたり大気中を漂います。
一方、高度数十キロメートルよりも低い対流圏では、1マイクロメートルより小さい微粒子であっても1週間ほどで落下しやすいのが特徴です。
このことから、大規模な火山の噴火が起こることによって、エアロゾルが成層圏で漂い続け気温が低下し、短期的に気候変動に影響を及ぼすことがわかります。それは地球温暖化を一時的に抑える働きともいえるでしょう。
過去に火山の大噴火によって、地球温暖化を一時的に阻止するほどの寒冷化現象が起こりました。それは、1991年6月に発生したフィリピンのピナツボ火山の噴火です。
21世紀最大の噴火ともいわれるほど大規模な噴火で、エアロゾルが約3週間で地球を取り巻きました。その影響により、1992年〜1993年の世界の平均気温は約0.5℃低下したのです。
ピナツボ火山の大噴火は地球温暖化を一時的にストップさせた大規模火山の事例となっています。
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しかし、地球温暖化を抑えた一方で、気温低下に伴い農作物の生産量が低下するなどの問題が起こりました。
1993年、日本でも冷害によって米の生産量が著しく低下し、タイ米などの輸入米に頼った時期を覚えている人もいるかもしれません。この冷害の主な要因も、ピナツボ火山の大噴火によるものと考えられています。
2022年1月15日にトンガの海底火山が噴火し、100年に数回規模の噴火ともあり世間を驚かせました。現時点での研究によると、噴火によって放出された二酸化硫黄の量は0.4Tg(Tgはテラグラム=1兆グラム)です。
とてつもない量であることは間違いありませんが、先ほど紹介したピナツボ火山の噴火で放出された二酸化硫黄量20Tgに比べると50分の1であることがわかります。
つまり、ピナツボ火山よりもだいぶ少ないということです。とはいえ、今回は海底火山であったため、二酸化硫黄が海水に溶けたり、大気中に飛び出しにくかったりしたことが考えられます。
二酸化硫黄の放出量が少ないことから、現時点では気候変動への影響は少ないと予測されていますが、引き続き研究を進めていく必要があるとのことです。
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火山活動によって放出される二酸化硫黄(が変化したエアロゾル)という物質が成層圏で漂うことによって気温低下が起こることがわかりました。
また、大規模な火山の噴火で気温が低下し、地球温暖化を抑えた事例もあります。とはいえ、火山活動による気温低下が継続する期間は約1〜2年です。
人間が今のまま二酸化炭素などの温室効果ガスを排出し続ければ、大規模な火山の噴火で地球温暖化を止めるのは不可能といえるでしょう。
火山活動などの自然活動は人の力では動かせません。私たちにできることは、安心して暮らせる地球環境を守るため、引き続き地球温暖化対策を心掛けていくことではないでしょうか。
https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2013/2013_10_0023.pdf
https://news.yahoo.co.jp/byline/takemuratoshihiko/20220119-00278082
https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/1986/1986_11_0615.pdf