国産野菜の危機と日本の農業の未来

国産野菜の危機と日本の農業の未来

 私たちの食卓には、毎日のように国産の野菜が上っています。青果店やスーパーマーケットの店頭には日々多種多様な商品が並び、買い物に行けば簡単に手に入れることができますよね。味、品質、安全性に優れ、私たちの健康的な食生活には不可欠な国産野菜。しかし、その野菜を生産する農業の現場は今、危機に直面しています。ここでは、日本の農業が抱える課題と未来の可能性について見ていきましょう。

日本の農業の課題

 日本の農業における最大の課題は、担い手の不足と高齢化です。2020年における基幹的農業従事者の平均年齢は67.8歳で、2010年から約2歳高齢化が進んでいます 。後継者がおらず、高齢となっても農業を続けざるを得ない状況や、若い世代の新規参入が少ないことがその背景にあるのです。農業自体が「きつい」「稼げない」仕事であるとみなされ、就職先として敬遠されていることも否定できません。足りない人手を外国人労働者や技能実習生で補うという手段もとられましたが、昨今のコロナ禍で彼らの来日が延期や中止になった際に深刻な労働力不足に直面するなど、必ずしも十分な解決策とは言えません。

 今のままのペースで高齢化が進めば、やがて農業従事者数がネックとなり、農業生産量は減少していくことになるでしょう。そうなった場合、日本の人口が必要とする量の野菜生産を賄えるのかも不透明です。世界全体では人口増加によって食料が不足する傾向にあり、国産の減少分を輸入で賄おうとすれば、食料の国際的争奪戦に参戦することになるでしょう。またコロナ禍で明らかになったように、世界の物流に混乱が生じればたちまち供給が途絶えてしまう恐れもあり、輸入頼みの状況は食料の安全保障上の観点からも問題があります。

 では、この問題に解決策はあるのでしょうか。ヒントになるのは、農業の中でも野菜の生産ではなく、酪農の分野で行われた取り組みです。酪農も野菜の生産と同様に、後継者不足、高齢化に悩まされており、365日休みなく家畜の世話があるため「きつい」「稼げない」と若い世代にも敬遠されてきました。そこで進められた取り組みが、農地、家畜の集積です。複数の農家が共同で出資して大規模な搾乳機などの設備を導入し、作業を自動化するとともに、家畜や土地を集約することで作業効率を高め、最小限の人数で日々の作業を行えるようにしました。その結果、個々の農家の負担が減り、交代で休日をとることができるようになり、働きやすさの点でも改善が見られました。機材の購入で大きな初期投資が必要となるものの、軌道に乗れば生産量当たりのコストは下がり、利益を確保しやすくなるという点でも、酪農の抱えていた問題を解決する取り組みとなりました。

 畑作の分野においても、IT管理やロボットの導入によって効率を高め、「楽しく」「稼げる」農業への転換を目指している事例があります。また、ブランディングによって商品の付加価値を高め、ふるさと納税で新たな販路を開拓するといった、高級化路線で利益の確保を目指している例もあります。日本の農業を持続させるため、様々な創意工夫が全国で行われているのです。

 ところで、ここまで見てきた日本の農業の危機に対して、私たちができることは何かないのでしょうか。農林水産省は、「フード・アクション・ニッポン 」や「食べて応援しよう!」という企画を実施し、国産農産物の消費量拡大や、様々な災害における被災地の農業復興支援を目指しています。

「食べ物を買って食べる」ということは、消費行動であると同時に、「私はこの産地や生産者を応援する」と表明する、いわば投票行動でもあるのです。例えば、有機農法など持続可能な農業に取り組んでいる農家の野菜を積極的に選ぶこと。あるいは、各地域で伝統的に生産されている、ブランド野菜や果物を取り寄せてみること。このように、食べ物を買うという日常的な行動の中に、「農業を応援する」という視点を加えてみることで、日本の農業の未来は変わっていくのかもしれません。


*1 農林水産省「令和2年度 食料・農業・農村白書」
 https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r2/index.html
*2 フード・アクション・ニッポンHP
 https://syokuryo.maff.go.jp/

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