独自の植物栽培装置やAI制御プログラムにより、革新的な植物工場を実現している株式会社プランテックス。さらに株式会社USMHと協力し、新たなビジネスモデルの構築にも挑戦しようとしています。今回はプランテックス社の山田耕資社長と開発担当・坂口氏のお二人に、これまでのプランテックス社の歩みと開発した独自技術を用いた植物工場の特徴、そして今後の展望について、お話を伺いました。
-この事業を始めたきっかけは何でしょうか?
山田:植物工場を見学する機会があり、その時に未来の農業を支える重要な技術だと確信し
ました。同時にまだ技術的に発展途上で改善の余地も多く、大きなビジネスチャンスを感じました。そのような分野を自身の手で作り上げていくことに、やりがいと面白味を感じ、事業立ち上げに至りました。
-農業・食品業界の経験者が少ないように感じましたが、そこに不安はありませんでしたか?
山田:植物の育成に関する知識・技術のサポートを外部から受けることができる体制は整っていました。そこで得たものを実践に移すことができるメンバーがいたので、問題は無いと考えていました。むしろ経験が無いことで、先入観に囚われずに進めることができました。
坂口:2010年ごろから国内で大型の植物工場の設立が始まっていて、私たちが事業を始めた時期は、成功事例・失敗事例含めて、それらの結果が出始めていた時期でもありました。前例を参考にすることもできましたし、新しいことへのチャレンジに貪欲なメンバーばかりでしたので、楽しみながらやってこられました。
-御社の技術の特徴としてクローズド・タイプの栽培装置がありますが、何故このような形式になったのでしょうか?
山田:より緻密に環境制御を行うことで植物の成長を引き出したいという、私たちがやりたい事を突き詰めていった結果、クローズド・タイプの手法を採用することになりました。
坂口:オープン・タイプの植物工場では実現できないことが多く、早いうちからクローズド・タイプで事業を進めようという結論になりました。例えばオープン・タイプの栽培装置では育成に使用する光が外に漏れてしまっていて、50%ほどは無駄になってしまっています。その無駄を解決するにはクローズド・タイプの栽培装置が最適でした。密閉された空間を作ることで、気温や湿度などの育成に関わる様々な要素を緻密にコントロールすることができるようになりました。
山田:機能が高度化する分、ハードの初期コストは掛かってしまいます。しかし、植物の成長を引き出して生産効率を高めることで、結果的に、生産量当たりの投資効率はむしろ良くなります。
-クローズド・タイプを採用したことで、商品の品質に変化は出ましたか?
坂口:植物の見た目・味・触感といった要素は生育環境によって変化させることができます。
クローズド・タイプの閉鎖された環境だからこそ比較的自由に環境を制御でき、高い品質の
商品を作り出すことに繋がりました。
山田:味には特に自信がありますので、是非他の商品と比較して召し上がっていただきたいです。
-開発に至るまではやはり苦労されましたか?
山田:内容が専門的で、開発投資額も大きく、成果を出すまでに時間もかかる事業なので、理解のある出資者さんやパートナー企業を得るのは大変でした。中長期的なビジョンを共有し、お互いに腹落ちして、さらに一緒に悩み、考えてくれるような方々は、とても貴重だし、大切だと思っています。
-プランテックスとUSMHの協業の中でどのようなビジネスモデルを作っていこうと思っていますか?
山田:植物工場の技術は、持続可能な社会を作り上げるうえでキーとなる技術になると思っています。環境問題や食糧生産問題など、世界が抱えている課題解決に向けて広く使用してもらえるよう技術を磨いていきたいです。USMHさんとの協業の中では、私たちの持つ「生産技術」とUSMHさんの持つ「流通・販売」のノウハウを合わせ、「製造小売」という新しいビジネスモデルとして、単体では成しえない価値を実現していきたいと考えています。
-今後はどのようなことに取り組んでいこうとお考えですか?
山田:私たちの技術でしかできない環境パラメーターのコントロールを軸に、高栄養価の野菜のような今までにない商品づくりに取り組んでいきたいと考えています。また、露地では病気や環境の変化に弱く育成の難しい品種の商品化にも取り組んでみたいですね。
坂口:これまで培ってきたノウハウがあるので、今後様々な種類の植物が育成できると思っています。植物工場はこれから加速度的に技術革新が起きる分野だと考えていますので、私たちがその先頭に立てるよう、既に研究を進めています。
山田:例えば昼夜の寒暖差が野菜の甘みに寄与するとよく言われますよね。私たちの技術であれば、極端に寒暖差をつけるといった自然環境では実現できない環境づくりが可能になりますので、このような点も差別化になると考えています。
-その中で課題に感じていることはありますか?
山田:どの品種を育てていくのか決めることが一番難しい問題だと感じています。年間を通し、高品質な商品を安定して供給出来る様になれば、今見えている市場だけでなく潜在的な市場へのアプローチも可能になります。様々な可能性の中から最も適した品種を見つけることは、難しいながらもやりがいのある課題ですね。
坂口:可能性のありすぎる市場なので、狙っていくポジションを明確にして取り組んでいきたいと思います。
-食の未来、特に農業全般の未来についてどのようにお考えでしょうか?
山田:食料生産の持続可能性が深刻な問題になっていくと考えています。日本は特に農業従事者の高齢化問題も深刻ですし、このままでは海外からの輸入により一層頼っていくことになると思います。世界的に食料が不足すれば輸入が難しくなることも予想されます。そうなる前に、食料生産の課題に対して真剣に取り組まないといけません。植物工場であれば少ない土地に人を集約することができ、投入する資源も節約した生産が可能です。「植物工場」という技術は課題解決の一つになると確信していますので、今後も継続して技術を磨いていきたいと思います。
(見出し)まとめ
植物工場や食品についての経験がほとんどないところからスタートしたプランテックス社。先入観にとらわれることなく、クローズド・タイプの栽培装置と装置内の環境を精密管理するプログラムという独自の手法で生産効率を高め、高品質な野菜を生産する植物工場を実現しました。USMHとの協業による製造小売ビジネスモデル確立への挑戦をはじめ、今後は植物工場の強みを生かした珍しい品種や育成方法での生産にも取り組もうとしています。さらには地球規模の食糧問題解決へ、新たな技術を生かしたプランテックス社の展望は果てしなく広がっていました。